2016年3月25日金曜日

【高速道路】制限速度120km/hに規制緩和で安全は確保されるか?

最高速度が120km/hに拡大される可能性がある高速道路
産経新聞3月24日
警察庁は24日、現行で時速100キロとしている高速道路の最高速度について、安全性の条件を満たす区間に限り120キロへの引き上げを認める方針を決めた。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160324-00010000-maiv-soci
警察庁が高速道路の制限速度を120km/hまで引き上げることを決定。来年2017年以降から試験的に一部区間において時速110km/hに引き上げて様子を見ながら…とのこと。

JC08モードに変わる新燃費モード「WLTPモード」の件でも触れましたが、高速走行における燃費試験を日本は除外してる。何故ならWLTPモードは世界的に統一しようとする燃費規制なんですが、世界的には高速道路やハイウェイにおける制限速度は120km/h前後だから。つまりもしかすると燃費規制に関わってくる問題もはらんでいます。

ただ気になるのは「高速道路の制限速度を引き上げても安全なのか?」ということ。調査によると現状維持を望む声が7割近くあるそう。そこで基本的な事柄に触れながら色々とテキトーに考察してみます。



◆制限速度が120km/hに変わる可能性がある道路は?

そもそも今回試験的に時速110キロまで引き上げられる区間を見ておくと、まずは「新東名高速道路の御殿場JCから浜松いなさJC」の数十kmと「東北自動車道の花巻南ICから盛岡南IC」の30km程度の話になります。

写真だと黄色い部分にあたります。見えづらいですがアップして見てください。だから距離としてはめっちゃ短い。

ただ緑色に塗られた部分が構造上(警察庁が定めた定義上)制限速度が120km/hに変わる可能性がある高速道路とされているので、九州自動車道や関越自動車道、常磐自動車道、南関東自動車道なども制限速度がいずれ緩和される可能性が高いです。つまり「一部」とは言いつつも、結構な広範なレベルで適用されそうなことが伺えます。

規制速度決定の在り方に関する調査研究検討委員会
一応具体的にどういう基準で選ばれてるのかというと、簡単に言えば「道路の構造」。カーブが少ないとか、勾配が少ないとか、道路の幅が広いとか、いわゆる「高規格幹線道路」と呼ばれる道路が制限速度120km/hになる可能性があります。


◆みんな制限速度を守ってないから

「ついに来たか」と書かれていた自動車評論家さんがいましたが、既に画像を貼りましたが警察庁は「規制速度決定の在り方に関する調査研究検討委員会」というのを開いて制限速度のあり方について随分前から研究調査しています。

そこで2008年における「実勢速度の実態」という項目を見てみると、「設計速度に関わらずほぼ100km/h~120km/hの範囲で推移してることが確認された」とあります。時速80km/h規制区間内でも同様の傾向が見られていると書かれています。つまり警察の皆さんはドライバーがまともに制限速度を守ってないことに気付いてらっしゃったんですね((((;゚Д゚))))ガクブル(笑)

要するに規制(制限速度)と実態(ドライバーの走行速度)に乖離が見られるから、実態に合わせた規制に変えていこうというのが今回の趣旨になります。本末転倒っちゃ本末転倒ですが、一般道でもそうですが制限速度にピッタリで走行したら渋滞が起きてしまいます。


◆60km/hから80km/hでは交通事故は増えない

長々と書きましたが、本題に入ります。果たして時速120キロに制限速度を緩和して交通事故は増えるのか?という疑問。

まず宇都宮北道路の事例を見てみると、2005年に制限速度を60km/hから80km/hに上げられたらしいですが、報告書では「規制速度引き上げによる交通事故の増加は見られていない」と結論付けています。

制限速度60キロが無意味だと警察庁が認めてた件」という記事を前に書いたことがありますが、むしろ低速走行時における交通事故の方が圧倒的に多い。裏を返すと市街地での交通事故が多いということでもありますが、一般的には最高速度を引き上げたからといってすぐ交通事故の増加に結びつくとも考えにくいです。


◆実勢速度が上がってしまう危険性

ただ時速100キロを超えてくるとさすがに事態が変わってくるのか、一方、その警察庁の報告では高速道路で最高速度を引き上げた場合の危険性もいくつか指摘されています。

主な理由としては、実勢速度(「85パーセンタイル速度」と海外では呼ばれるらしい)も更に上がってしまう危険性があるから。現状でも既に時速120km/hで高速道路を走行してるドライバーさんも多い。そんな状況で最高速度を120km/hまで引き上げると、高速道路を130キロ140キロで走行するドライバーも増える可能性が無きにしもあらずということ。

もし実勢速度に制限速度を合わせただけであれば、本来なら交通事故件数は現状維持で済んでなければいけませんが、「ア」の場合だと交通事故件数は4%程度上昇すると予想されています。この増加率を高いと見るか低いと見るかは人によりますが。

ただそれでも交通事故を招く原因は「渋滞」にあります。「ウ」では速度差が大きくなるから事故が増えると指摘してますが、これは裏を返すとそれだけ時速100キロがチンタラ走ってる証拠。むしろ最高速度を引き上げた方が、今でも時速120キロ130キロで走行している車両との速度差が結果的に減少します。


◆日本の交通事故は歩行中に起きてる

http://www8.cao.go.jp/koutu/taisaku/h26kou_haku/zenbun/keikaku/sanko/sanko02.html
じゃあ日本でどこで一番交通事故による死者が多いのか?それは圧倒的に歩行中。自転車に乗ってる方の被害者も多い。

つまり先程は交通事故件数が4%増えるかもと言いましたが、そもそも日本では自動車対自動車の事故が少ないので、大きな影響は考えにくいです。実際人口10万人あたりの交通事故死亡者数を比較しても、日本は4.1人に対してドイツは4.4人。ほぼ大差がない。

高速道路では出入り口規制が行われているので、常時120km/hで走行するおバカさんも少ないはず。だから高速道路の制限速度を20km/hほど引き上げたとしても、そんなに世紀末みたいな事態が起きるとは考えにくいと思われます。

メリットとデメリットのどちらを重要視するかは難しい問題ではありますが、もし安全性や危険性を最優先に議論するのであれば、歩行者に対する事故をどう防ぐかを議論するのが一番効果的でありましょう。

そもそも各マスコミに大本営的に発表された以上、警察内では「高速道路の最高速度120km/hへ拡大」はほぼ既定路線なんだと考えられます。仮に試験中の高速道路で事故が起きたとしても安倍政権に追随するしか能がないマスコミさんが大々的な批判キャンペーンを行うとも考えにくいので、おそらく高速道路の制限速度・最高速度は「粛々と」緩和されていくものと考えられます。

むしろ「制限速度を120km/hまで引き上げるために、古い高速道路を高規格道路にしなければいけない」という論調を作ることが可能。つまり今回の件をもう少し穿った見方をすると、公共事業費を増やすための格好の口実になります。まさに自民党さんの大好物。制限速度を引き上げない手はありません(笑)

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